GNU Social の思い出

この記事は 分散SNSフォーラム - connpass 応援記事です


タイトルは若干誇張であってここではGNU SocialインスタンスのひとつであるFreezePeachにアカウントを開設してからの半年間にあったことを私的な観点から記録します。GNU SocialというのはMastodonより古いいわゆる分散SNSの実装のひとつで、Mastodon等の別の分散SNS実装と一定の互換性があり相互通信が可能です。今回取り扱うFreezePeachは、ほぼ唯一日本人コミュニティが存在しているGNU Socialインスタンスです。*1

FreezePeach と #twexit

私がFreezePeachにアカウントを作成したのは日本でMastodonが話題になるよりかなり前になる2017年1月2日で、ことの発端は女性器に擬態している生物 (現@hakabahitoyo) が思いつきで始めた #twexit という脱Twitter運動でした。本人曰くTwitterの代替としてFreezePeachを選んだことに必然的な理由はなかったそうですが、ともかくこれに影響された何人かのTwitterアカウントがFreezePeachにアカウントを開設しました。といっても多くの人にとってTwitterから脱却する強烈な理由があったというよりは、退屈しのぎにアカウントを作ったらだんだんとムーブメントとして盛り上がってきたこと、それに原住民との交流が活発だったことの目新しさなどから興味を惹かれたという感じだったでしょうか。

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https://freezepeach.xyz/

アメリカに存在するインスタンス、FreezePeachはその名 (Free-Speech) のとおり「言論の自由」を大々的に掲げたインスタンスのひとつです。その利用規約はシンプルを極め、児童ポルノ投稿はBAN対象であること、それ以外の言論については自己責任、と念押しされているのみです。

As for rules:

1. Don't post child porn. This is a bannable offense. And we're obligated by law to report you to the appropriate branch of law enforcement.

That's... that's pretty much it. Mind the laws in your own country on what you can get in trouble for discussing, but that responsibility is solely your own.
(FreezePeach ToS より引用)

Twitterにはルールがたくさん定められています。著作権侵害、露骨に性的なコンテンツ、嫌がらせ、非合法な目的での利用……。Twitter社のこのルールの運用が非常に悪名高いことはみなさんもよくご存知だと思われますが、とにかくFreezePeachではできるだけBANの無いサービスを目指す代わりに、ブロックや「sandboxing (いわゆるミュート)」の積極的な利用を推奨し、「嫌なら見るな」というある意味で非常にハッカー精神的なサービス運営方針をとっています。

#twexit 以前のFreezePeachは、元々はGamer Gateという一大論争を発端に、いわゆる Social Justice Warrior (日本のTwitterでいうツイレディやポリコレ棒) から逃れて話ができる場として作られたようです*2。やがて小規模なコミュニティを形成するに至った住民は日常の些細な出来事やニュースや趣味について語るといった至ってTwitterと同じような場としてFreezePeachを利用してきました。アカウント同士の距離感がかなり近いので頻繁にリプライがとび交い、実際Twitterの常識で使っているとクソリプそのものとしか言いようがないユーザー体験を強いられることになるのですが、このあたりの感覚はインスタンスの仕様や規約といったハード面とは別に形成されるもので興味深いです。#twexit 以前に一度日本のTwitter文化圏のユーザーが入植し日本人街を形成されていたことにはいたらしいのですが、その後文化が定着せずに消滅し、Twitterの投稿をFreezePeachにミラーする仕組みを使っている人による自動投稿が延々とタイムラインに流される廃墟と化していたところに女性器に擬態している植物が目をつけたという経緯のようです。

ともあれ #twexit から数日の間、各人思い思いに好きなことを書き込み続け、public timeline (インスタンス内の投稿が全て流れるタイムライン) はマルチバイト文字で圧倒されていきました。

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(1月3日3:02時点でのトレンドの様子。GNU Socialのハッシュタグは日本語が全部アルファベットになる*3のですが、よく見ると全部日本のTwitterの文脈)

そうこうしているうちに案の定というか、女児の画像を投稿したアカウントが通報を受けて凍結されます。この直後サイトトップに常に「子供のエッチな画像投稿禁止」旨の警告文が表示されるようになり体感治安がメチャ悪化しました。

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この削除要因が裸の女児が泥だらけになって遊んでいる姿態(局部の露出なし)の画像や水着で海で遊んでいるただのホームビデオのリンクというTwitterならスルーされる程度の内容だったせいでTwitterより不自由じゃないかと多少物議を醸したのですが、結局あえてルールに抵抗する理由もなくそれ以降はごくマイルドな画像・動画がシェアされる良好な状態が維持されて警告文の表示も無くなりました。そういえばPawooでも無修正3次(某有名ゲイビデオ)が流れたと風の噂に聞きましたがどうなったんでしょうか。

こうして振り返ると一連の騒動がFreezePeachとしては迷惑としか言いようがないものだったことに愕然とさせられるのですが、実際タイムラインを汚すなと言う人も何人かいた一方歓迎する人もいて、全体として排他性を感じることはなかったと思います。あまりに良い人達なので最初は新しい遊び場くらいにしか思っていなかった私もだんだん愛着が沸いてきました。ともかくルールを守る限りでは書く内容についてはあくまで不可侵という認識は全員に共有されているようで文章の内容に関して不快な攻撃を受けることはほとんどありませんでした。だからといって英語で女児による前立腺マッサージについて英語で記述すると「ここではあなたにはその投稿をする自由がある」というリプライが飛んでくるのはかなり嫌な体験でしたが。

MastodonGNU Social

MastodonGNU Social文化の関係についても触れておきます。いま一度念を押しますが、この記事で触れるGNU Social文化とはFreezePeach, Sealion Club, Shitposter Club, GNU/Smug 等の互いに関連しあったGNU Socialインスタンスが構成する一定の文化圏を指し、必ずしも全てのGNU Socialインスタンスに当てはまるかどうかについては私の知るに及ぶところではないことをお断りしておきます (例えばリチャード・ストールマンのいるGNUsocial.noにはあてはまらないと思う)。

さて単刀直入に言うと、FreezePeachはmastodon.social (mastodon開発者の運営するインスタンスです) にインスタンスごとブロックされています。いろいろと経緯*4はあるようなのですが、不謹慎ユダヤネタにマジレスした人が晒されてHentai画像が大量に送りつけられるという事件があり、関連した治安の悪い文化圏のインスタンスがまとめて目をつけられたというどこかで見たような事情のようです。

今更になりますが、FreezePeachやその周辺のインスタンスのユーザーはしばしば自分たちの居場所をゲットーと呼ぶなど悪質な言動を文化にしているところがあります。Mastodonとしてはそのような文化を快く思わず、一方のGNU Social側もMastodonを気に食わないやつだと思っているようです。

The GNUsocial Axis Resolutions (日本語) ではかなりはっきりとMastodonに対する反感が表明されていますが、MastodonTwitterという一企業の支配からの脱却による自由という面を重視している一方で言論に関してはキレイで有意義な場を作ることを指向しています。Mastodon.socialのことは詳しく知らないのですが、capitalismとかfascismとかの単語がけっこう飛び交っている印象があります。

GNU Social側は元々治安が悪いうえにMastodonを目の敵にしていてPawooが可愛いくらいにやりたい放題やっています。shitposter.clubという不謹慎インスタンスMastodon開発者の偽アカウントが存在するのですが、Pawoo鎖国騒動に乗じて暴言を吐いていた当時にはなりすましに気づかず困惑していた日本のユーザーがかなりいた覚えがあります。

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この件ではmastdn.jpのnullkalが既存の推奨ブロックリストに追従する形でshitposter.clubを安易にブロックしようとしたのをGNU Social側の説得により撤回するという一幕もありました*5。shitposter.clubはそもそもユーザー全員のアイコンがEugenに変わったりかなりムチャクチャをやっているのですが、他にもsealion.clubでは"Mastodon"と書くと"the pile of Ruby shit"に置き換わるなどいろいろあるようです。ひどい。

まとめ; 分散SNSのこれからについて

さて、日本のTwitterMastodonが流行った一時の熱も収まり、各地で、Twitterとは少し違う居場所としてコミュニティが形成されているのではないでしょうか。

これは一例です

例に漏れずFreezePeachもそんな具合で、LGBTPZN関連の話題、あるいは分散ネットワークについての技術的な話題、その他の話題についてもぼちぼち話す場所になっています。また、TwitterのURLを引用しても相手に通知が行かないために気兼ねなく特定のツイートに言及できるのは非常に便利でした。私の場合、FreezePeachのアカウントのフォロワーはTwitterのフォロワーの部分集合なのであえて拡散力の低いほうを使う理由はないはずなのですが、前述した特定の話題を扱うときはもちろんのこと鍵垢にするほどでもないツイートを書き込むときにも使えると思っています。おそらくTwitterからはみ出して他の非主流SNSにまたがったユーザー全般がそう感じるのではないかと思うのですが、なんとなく、独特の内輪の雰囲気があります。ただ、雰囲気でクローズドとはいえ実際にはパブリックなので、いつか痛い目を見るかもしれません。特にMastodonが普及してからは連合タイムライン経由で投稿が漏れるのであまり意味がなくなったかも。たまにペドフィリア云々という投稿で知らないマストドンアカウントから通知が来ることがありヒヤッとさせられます。

FreezePeachを使っていてひとつ心残りだったのは、結局以前からのユーザーとの間には壁が存在したことです。初期こそこちらの日本語投稿をGoogle翻訳を駆使してリプライを送ってくるということが頻繁にあったけど、徐々に無くなっていったのは勿体無く思います。まあLGBTPZNという概念や「ラジ」という語尾の輸出という一定の成果はありました。

FreezePeachの大きなテーマだった言論の自由についても書いておきます。理論的には、各自が自身の責任の下で情報を発信するインフラを所有することが無制限な言論の自由を産むはずです。旧来のメディアに対してインターネットはそうした可能性を秘めています。幸いにして言論の自由が保証されている国に住み、一定の意味において確立した自由なソフトウェア流通を享受している私たちは、その限りにおいてどんな情報でも発信できるはずです。しかし拡散力という面では一からの発信は困難を極めるためにSNS等の確立されたインフラに乗る必要がありますし、たとえ自由なソフトウェアによってその問題から解放されたとしてもソフトやハードを自前で整えるほどの技術力が誰にでも備わるということは考えにくく、ましてや定期的なアップデートや悪意のある攻撃への対応になると適応できる人はかなり限られてくるでしょう。

そもそも私達は本来、自由なはずです。ところがTwitterを利用すればTwitterという企業の気紛れに、実生活では家族や学校や会社や自治体や国に左右されてしまいます。これは「権利を得たいなら義務に従え」式の疑似規則ではなく、いわば交渉の領域に存在する問題です。私たちは常に他者を利用し、同時に利用されて生活しています。ただ、何を利用するかどうかは選ぶことができるし、他者を変えることもまた可能な選択肢のひとつです。

インターネットの言論は、それが多数の人間に関わる、つまり政治的な事柄である以上ひとつの完璧な正解といったものはありません。#twexit を機にFreezePeachにアカウントを作った人たちは現在FreezePeach以外の場所を求めていくつかの自前のGNU Socialインスタンスを運営しています。

Pawooへの移行運動のとき、私は少なくとも自由さにおいて上回るはずのFreezePeachが以前からあったことを差し置いてPawooが救世主のように語られる様子を歯がゆく感じながら見ていました。FreezePeachは二次絵でBANしないだけTwitterよりも確実に良いです。無修正でもOKなだけPawooよりもさらに良いです (もちろん猥褻物頒布にはあたるわけですけど、もし確信犯的にそうしたいという意図がある場合に力になる場はたくさんあるし、なんならTorだってあるということはとても意味のあることでしょう)。結局PawooとTwitter二重投稿する文化ができつつあるのはとても良いことでした。TwitterにもPawooにもFreezePeachにもそれぞれ利点と欠点がありますが、その存在を知らなかったりそもそも存在しなければ使うことすらできないでしょう。私たちは選ぶことも変えることもできます。もしあなたが何か不満を持っているなら、それを少しだけマシにする方法は案外手を伸ばせば届くものかもしれません。

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日本マストドン史が今後編まれると思うけど、この記事を機に先史としてGNU Socialをねじ込む風潮を作っていきたい。これを読んでいるマストドン史編纂者は事前にFreezePeach住民に一声かけること。

*1:分散SNSなんだからインスタンスに存在するコミュニティに意味はないという意見はある意味正しいけど、現実的には同じインスタンスであるということにはかなりの意味がある。インスタンス内の投稿をまとめて閲覧できるTLが存在すること、そして自分がどのインスタンスにアカウントを作成するかという決め手になる要因は結局そのインスタンスの文化や既存アカウント群にしかないため

*2: これは正確には sealion.club というインスタンスの話で、FreezePeachはその派生インスタンスらしい

*3:ラテン文字ICU音訳器でむりやりラテン文字に正規化 (transliterator_transliterate) するクソアホ仕様である

*4:https://freezepeach.xyz/notice/2080604

*5:でも分散SNSにおいて悪質インスタンスぐるみでニセアカウントを作られた場合、インスタンスをブロックするか泣き寝入りするか法的手段をとるかの三択しかなさそうなのでEugenがかわいそうに思えてきた